自動ドアから建物内に入る。

 建物同様に少々胡散臭い中年の男性がフロントに立っていた。何が気に食わないのか、苦虫を噛み潰したような表情をしているため、話しかけるのもためらってしまう。
 
 少しの勇気を振りしぼり、部屋空いてますか? と私が聞くと返事らしい返事もないままに、ご宿泊受付カードと書かれた紙をスーッと差し出してきた。書けということなのだろうと判断して、氏名欄に覚えたての鈴木博子の名前と書いた。住所も電話番号も佐藤に渡された紙通りに記入する。

 宿泊日の欄には今日を含め3日後までの日付を書いた。おずおずとその紙を差し出す。 

「料金は前払いでいいかね?」

 予想以上にしゃがれた声が聞き取り辛く、え? と聞き直す。

「連泊以上される客には、前金をお願いしてるんだが」

 フロント係の男は、ゆっくりと、一音一音切りながら必要以上に大きな声でそう言った。

 態度はあくまで高圧的で押し付けがましい。百歩譲っても接客の態度ではないが、資料にこの宿のことが書かれている以上、私はそれに従うつもりだ。

 「あ……はい。お金払います」

 封筒から3万円を出す。お釣りがあまりに少なく、食事もついてるんですか? と問うと、男は黙って明後日の方角を指差した。