服も支給されたものに着換えていた。インディゴブルーのジーンズに、黒の横ボーダーの長袖のカットソー。

 特に何が悪いというわけでもないが、微妙に残念な服だった。逃避行をしている身で贅沢を言ってられない立場なのは分かるが、せめてもう少しマシなものはなかったのだろうか。

 田中伊織の時に着ていた服は、佐藤に問答無用で押し付けてきてやった。面倒くさそうな顔をしていたが、処分はしてくれるだろう。 

 何とも気持ちが上がらない。追い出されるかのように唐突に始まった逃避行だ。気持ちも準備も何もかもが追いつかない。

 佐藤から手渡された妙に大きく重い鞄を、よいしょと肩にかけ直す。
 
 佐藤が当面困らないだけのお金を入れたと言っていたが、当面困らないどころか、ちょっと多過ぎるんじゃないか思うくらいのお金が封筒には入っていた。私に迷惑をかけたことへの慰謝料もその中に含まれているのかもしれないという解釈は時期尚早か。

 スマホは、夕方の3時を少し過ぎた時間を表示していた。

 そろそろチェックインができるんじゃないだろうか。昼食も食べ損ねているし、予定ではショッピングをすることに――あくまで資料が一方的に決めているだけだが――なっているものの、とりあえずその前にこの重たい鞄を置いてしまいたい。
 
 宿は駅の近くにあり、5分も歩けば到着した。

 宿と言ってもホテルや旅館ではなく、単なるビジネスホテルだ。元々は綺麗なベージュであっただろう壁は、長い間、風雨に晒され、黒い筋が幾重にも這っておどろおどろしい文様を作り出している。地震も何度か経験したのだろう。小さな亀裂も走っていた。