在来線を乗り継いで、約一時間半。下りた町は一言で言えば中途半端な田舎町だった。

 駅前には小さいながらもロータリーがあり、正面にはビルも見えるが、三階建ての古びた建物に一見してどんなテナントが入っているのか、いや、そもそもテナントが入っているのかさえも分からない。

 空は曇天で、まるで私の冴えない気持ちを表しているかのようだ。空気も淀み、どことなくかび臭い。

 貰った資料を開く。宿泊先の情報は一件だけ。観光欄にはショッピングの文言のみ。この町で三日間、過ごさなければならない。
 
 もしかして近くに大きなショッピングモールでもあるのだろうかと見渡してはみるものの、寂れた雰囲気に包まれた駅前には人気《ひとけ》も少なく、さらに言えばロータリー付近に見当たるバスの古さを鑑みても、人の集まりそうな商業施設があるとは到底思えない。

 今日から私は鈴木博子(仮)だ。今朝まで使っていたスマホは田中伊織名義のものだから、電源を落として佐藤に渡した。処分しておいてくれるらしい。

 その代わりに手元には佐藤から支給された新しいスマホがある。白色のボディは傷1つなくまばゆい。新しい機種の分だけ画面も大きく、動作も軽快に感じるが、まだ自分のものだという実感はわかない。