「すぐに私が使えそうなものが見つからなかったって……ことですよね?」

 土下座の理由で考えつくのはこれくらい。

 しばらく田中伊織でいなければならないのなら、会社にちゃんと連絡をしておけばよかったなんて、今更ながらに思う。

「違う」
「じゃあ、私がその先過ごす人生があるんですか?」
「ある」

「だったら……」

 どうして土下座なんて。後半部分を口にする前に、佐藤は頭を下げたまま、手にしていた角2封筒を私に差し出してきた。

 受け取り、蓋を開ければクリアファイルに挟まれている用紙がある。

 用紙を取り出す。書類に目を落とし、すぐに佐藤が頭を下げる理由が分かった。

「これって……」

 怒り。納得。そして落胆。不思議と悲しみは湧いてこなかった。確かに私に一番マッチした人生だ。これ以上、データの適合率の高いものは世界中探しても他にはないだろう。