私が滞在することになった部屋は、確かにビジネスホテルの一室ではあるものの、佐藤が電話で"例の部屋"と言っただけのことはあって、私の認識する普通のビジネスホテルの部屋とは少し趣《おもむき》が違った。

 まず部屋に電子レンジがある。冷蔵庫もちゃんとした2ドアのものが置かれている。さらに驚くべきことに洗濯機まで完備されているのだ。

 その分、部屋が狭い。シングルベッドがキチキチに置かれているし、テレビも妙に近くに感じる。
 
 食事はどうしたものかと悩みながら、その晩は寝た。全く問題がないことを知ったのは次の日の朝のことだ。朝になれば頼んでもいないのに、ホテルのボーイによって、食料が届けられた。

「頼んでませんけど」

 そう断りを入れるも、この部屋は食材がセットになっておりますのでという返事に、さすがにピンときた。

 この部屋は私のように、人目を避けるべき人間が滞在する部屋なのだ。ただし、食材と言っても、部屋にキッチンがあるわけではないものだから、簡単に食べられるものばかりだ。レンジでチンをするものや、お湯をかけるだけのもの。

 似たりよったりの味ですぐに飽きてしまうが、チャーハンやら麺類やらの冷凍食品は、賞味期限が長く、何より味がよいので重宝した。