準備が整ったら連絡すると言っておいて、佐藤からコンタクトがあったのは、私が騙されたと決めつけ、ほぼ諦めた頃だった。

「じゃあ、今、この瞬間から私はどうしたらいいんですか?」
「ホテルに籠もるとか」
「籠もってどうします? 父親は……あの人はともかく、職場から不審に思って警察に連絡がいったら?」
「そうだなぁ……凍結されたら、そんなに大事にはならないんだがなぁ」

 どういう仕組みか分からないが、その人物の人生――名前やら経歴やら――が凍結されると同時に失踪届が受理されたことになる。警察も行方を追っている体となり――あくまで体だけなので警察が具体的に動くことはなく、探したけれど見つかりませんでした、と結論づけられるのだという。
 
「やっぱ、新しいものを探すしかないのかぁ」
「できるだけ早くにお願いします。半月くらいは有給使ってごまかせますが、それが限界です」

 入社してから一度も有給休暇は使っていないから、そちらは問題ないはずだ。どれだけ心証が悪かろうと、もう会社には戻れないのだから、休んでしまったもの勝ちということになる。いや、そもそも有給を気にすること自体が意味をなさないのか。

「嬢ちゃん、行く所は?」

 私は佐藤を睨みつける。