「入れよ」

 予想通り佐藤の声が出迎える。私はドアを開けた。

 何から何まであの時と同じレイアウトだった。衝立があり、部屋の中央には机が置かれ、その机の上にはパソコンとディスプレイ。佐藤と対面する位置には椅子が1つ。壁紙こそは違うが、あとは同じ。少なくとも私の記憶の限りではそう。

「まぁ座れよ」
「座ってます」

 今回は全て佐藤のミスによるものだ。遠慮することはない。私は部屋に足を踏み入れるな着席していた。
 
「そんなおっかない顔するなよぉ」

 久方ぶりに会う佐藤は、やはりその時間だけ齢を重ねていた。もちろん人相が変わるほどの変化はない。あくまで少し中年になったなという程度。

「おっかなくもなりますよ。人生は人と共有だし、父親はゲイじゃなくてバイだったし。こんなの詐欺じゃないですか?」

 詐欺詐欺詐欺。何度も連呼する。

「ホント悪ぃ。反省してる」
「だったらさっさと何とかしてください」
「さっさと言われてもなぁ……。分かってると思うけど、新しい人間の人生を歩めるよう準備を整えるだけでも、数ヶ月時間が必要なんだ」