私が田中伊織になったばかりの時、佐藤は高校の制服やら携帯電話やらを送ってくれた。

 サイズ合わせをした記憶もないのに届いた制服に、私は首を傾げたものだ。

 制服は佐藤の見立てによって作られていた。もしサイズが合わないようなら連絡してこいとご丁寧に携帯番号が記された紙が入れられていた。

 お守り代わりにその紙を財布にしまった。何となく困った時に助けてくれそうに思ったからだ。

 あれから約8年。この紙に記された携帯番号の有効期限はいつまでか。

 普通に考えれば、とっくに携帯番号なんて変わっている。佐藤の仕事を考えれば尚更だ。

 でも、なんとなく――本当になんとなくだが、この携帯番号は生きているような気がしていた。おこがましいが、私のために取っておいてくれているようなそんな予感があった。

 紙を見ながら、スマホに番号を入力する。発信ボタンを押す時は、正直指が震えた。これが通じなかったら、私は完全に遭難する。

 スマホを耳に当てる。一瞬の沈黙の後、ブルルルとリングバックトーンが鼓膜を刺激する。

 仮に繋がったとしても、全くの別人がこの番号を使用している可能性も大いにある。間違えました。すいません。そういう心の準備までして、リングバックトーンを聞き続ける。

 なかなか電話に出てくれない。やはり別人が使っているのかもしれない。知らない番号からの着信は出ない人も少なくない。怪訝な顔で知らない番号が表示されたディスプレイを眺めながら、相手が諦めて電話を切るのを待っているのかもしれない。