私は立ち上がり、視界の先にあった自分の鞄の紐をつかむ。台所と廊下との間の引き戸を勢いよく開けたために跳ね返って体が挟まってしまったが無理やりにこじ開け、無我夢中で玄関に走った。

 とっさに履いてきた靴がスニーカーでよかった。これがブーツだったら目も当てられない。靴につま先をねじ込み、私は玄関の外に出た。

 乱暴に玄関のドアを締め、そのまま数十メートル全力疾走する。しんどい割には前に進めず、焦りを感じて背後を振り返る。

 哲史が追っかけて来るようなら大声で叫ぶつもりだったが、哲史が飛び出してくる様子がないことを確認した私は、そこで立ち止まり、靴を履いた。

 荒い呼吸も、しばらくすると少し落ち着いた。

 その後、トボトボと歩を進める。大きな大きなため息が漏れた。安堵と不安。完全に行く当てをなくしてしまった。これからどうやって生きていけばいいのか。

 私は大通りに向かって進むことにした。

 駅前に漫画喫茶があったから、そこにでも行こうか。いや、駅前では近過ぎる。哲史が後から探しに来るという可能性も捨てきれない。

 とにかくこの街から離れるのだ。それもできるだけ遠くに。