「でも……」

 心配事もあった。彼は私の職場も知っている。乗り込んできたりしないだろうか。

「大丈夫。彼は数日以内に拘束される。すぐにこの街から消えるし、表には顔を出せないよ」

 彼は私に秘密をバラしてしまったことが、そこまで早くバレてしまうのかと、まざまざと恐怖を感じさせられた。

「うん……分かった」

 私は飲み終えたマグカップをソファの隣のテーブルの上に置いた。

「とは言え、深く傷ついたことだろう。今晩は僕が慰めてあげるから」

 不意に頬に手を当てられたかと思うと、いきなり唇を重ねられた。

 あまりに唐突なことで何が起きてるのかすぐには理解できなかった。

「……ちょ、ちょっと!!」

 ようやく事態を理解して、慌てて哲史の胸を押しのけた。

「な、何するの!?」

 叫んだ声が裏返った。

「だから慰めてあげるって言ったでしょ?」

 哲史はニヤニヤしている。私の知る限り、哲史はずっと紳士だった。こんな下卑た笑みを浮かべる哲史を今までに一度だって見たことはなかった。

「止めてよ。気持ち悪い」
「おいおい。気持ち悪いとは失礼だなぁ」
「大体、あなたゲイでしょ?」

 ゲイだから安全だと佐藤は私に言った。哲史がゲイだと信じていたからこそ、形だけとは言えずっと親子でいられた。