ドアを開ける。引っ越したばかりなのに、既に懐かしさすら感じていた。

 物音に気づいたのか、台所から哲史が顔を出した。ご飯を作っていたのかエプロンをしている。

「あれ? おかえり。どうした? 実家が恋しくなっちゃったかな?」

 私はただうつむくしかなかった。そんな私の様子を察してか、哲史はリビングのソファに私を座らせた。

「ケンカでもしたかい? まぁ、若いうちはよくあることだよ」

 ゲイの哲史に言われると何だか嘘っぽい。思わず笑みをこぼした私は真顔に戻り、首を横に振った。

「まぁ、とにかく落ち着きなさい」

 哲史はマグカップを私に握らせた。中身はアイスココア。私の好物の1つだ。親子という間柄になって約7年。すっかり私のツボを押さえている。

「ありがと」

 私はしばらく無言でココアを飲み込んだ。甘いココアは私を落ち着かせてくれる。ココアに含まれるカカオポリフェノールはリラックス効果もあったはずだ。

 私がココアに夢中になってある間、エプロンを外した哲史が私の隣に座っていた。