何故。何故。何故――。

 何故、彼と出会った。何故、彼と付き合った。何故、彼と結婚しようと思った。何故、父を殺した男の息子だと見抜けなかった。

 アパートから表通りに出た。コツコツと地面を蹴り、怒りをぶつける。

 立ち止まるわけにはいかなかった。振り向いたら彼がすぐそこまで来てそうで恐い。

 部屋を飛び出したものの行き先なんかなかった。逃げ込める場所があるとしたら――実家しかない。

 電車に乗り、通い慣れた駅で降りた。

 すっかり馴染みのある道を歩いているのに、少しばかりの後ろめたさを背負っているせいか、何かが違う。

 違和感にソワソワしながらも自然と足は普段の道のりをトレースし、やがて少し古ぼけた一軒家に到着した。

 私の――実家だ。

 玄関の前に立ち、軽く息を吐き出す。今更ながらどんな言い訳をしようかなんて考えたものの、哲史は私と同じ秘密を持っている。隠す必要はない。ありのままを話せばいいのだ。