「何故……」
「だから――」

 もう一度彼が口を開きかける前に、私は周囲のものを手当たり次第に彼に投げつけていた。

「もう止めて!!」

 テーブルの上に置いてあった役所でもらったその町に関する冊子も。プラスチック製の箸立ても。テーブルの近くに置かれたままの片付け途中の段ボールの中にあったぬいぐるみの類や小さな置物さえも。手のひらに納まるものは例外なく投げた。

 ほとんどが彼から外れたものの、小さな置物の一つが彼の額に当たり、血が一筋流れ落ちるのが見えた。

 構わず私は鞄を手に玄関に向かった。

「いお!!」

 彼が私の手をつかむ。

「離して!!」

 私は強引に手を振りほどき、玄関を飛び出した。