「それでも馬酔木和成の息子として生きていくつもりだった。でもそういうわけにはいかなくなって、僕は別人になった。田中伊織という人間となって生きていくことになったんだ」
7年、ううん8年前かな。8年前の12月16日。
耳に残る日付。佐藤が忘れるなと言った日と――同じ。偶然がつながって線になっていく。
「時間だって覚えてるんだ」
やめて。反射的に耳を押さえようとしたものの、彼が声を発する方が早かった。
「――午後6時43分」
時間まで――分に至る最後の最後までピタリと全てが重なった。私が田中伊織の人生を手に入れたまさにその瞬間と。
私は両手で顔を覆った。
人の人生を使っていたんじゃない。一つの人生を彼と私で取り合いになったんだ。
本来ならどちらか片方しか手に入れられるはずのない田中伊織という人のこれからが、どういうわけか両方で手に入れることができてしまった。
7年、ううん8年前かな。8年前の12月16日。
耳に残る日付。佐藤が忘れるなと言った日と――同じ。偶然がつながって線になっていく。
「時間だって覚えてるんだ」
やめて。反射的に耳を押さえようとしたものの、彼が声を発する方が早かった。
「――午後6時43分」
時間まで――分に至る最後の最後までピタリと全てが重なった。私が田中伊織の人生を手に入れたまさにその瞬間と。
私は両手で顔を覆った。
人の人生を使っていたんじゃない。一つの人生を彼と私で取り合いになったんだ。
本来ならどちらか片方しか手に入れられるはずのない田中伊織という人のこれからが、どういうわけか両方で手に入れることができてしまった。