「いるじゃん」

 目を開ける。彼と目が合う。

「どうした?」

 目を合わせるのが苦しくて、顔を背けて自身の足元を見た。

「いお? どうした? 聞いてるか?」

 彼の無防備の声が、今ばかりは鋭く胸に刺さる。辛うじて彼の言葉にうなずいた。

「実は――夕方、役所から連絡があって」
「役所から?」
「うん。婚姻届、受理されなかった」
「……え?」

 彼の顔色が瞬時に変わった。

「戸籍が一つないんだって――」

 ごめん。私が偽物なの。そう言う前に、彼はいきなり床に手をついた。

「ごめん!!」

 急に彼が土下座をしたことが理解できず、ただただ私は硬直した。