15歳から今までの私の人生は何だったのか。田中伊織という人間の人生が、ようやく自分のものだという実感が湧いてきたというのに。

 片付けをする気なんて欠片も起こらず、ただただボーッと椅子に座っていた。

 この日のために新調したテーブルセット。料理はそんなに得意ではないが、それでも彼のために練習して、レパートリーも増やして、上手になったねって褒めてもらうことばかりイメージしていた。

 それが今は何もかも滑稽だ。

 暗くなっても明かりもつけなかった。カーテンも締め切っているから時計も見えない。

 突如、カチャと音がして、玄関のドアが開くのが分かった。

「あれ? いお? いるの?」

 部屋自体が暗いことに違和感を感じたのだろう。彼が室内に届くように声を上げた。

 返事はしない。ただ、彼の声を聞き、泣きそうになった。

「おーい。いお、いないのかい?」

 呑気な口調。彼と一緒にいられるタイムリミットが、彼の廊下を歩く音とともに刻一刻と迫ってきている。

 彼の気配がすぐそこまで近づいていた。固く目を閉じる。そして――とうとうリビングの明かりが灯された。