「はい……提出しました」
「旦那さんの欄も奥様の欄も、どちらも田中伊織様となっていますが、お間違えってことはないですよね?」
「……どういうことですか?」
「ないんです」
「ない?」
「はい、戸籍が1つ。ですので受理出来ず、連絡させて頂いています」

 その先のことはほとんど覚えていない。多分、ごめんなさい、冗談で書いた方を間違えて提出してしまいました。そんなことを言って、逃げるように電話を切ったと思う。

 ――戸籍がなかった。やはり偽物はいつまでもたっても偽物のままだった。

 私は彼と結婚ができないばかりか、彼の前で田中伊織でいることも許されない。

 どうしてこうなってしまったのか。発端を手繰り寄せる。

 父の事件の後、私はとにかく胡桃山という名字を捨てたかった。投函されたチラシ。藁をもつかむ気持ちで、私は佐藤に連絡を取った。