スーパーに行って、食材を買ってこようか。晩ごはんのメニューを頭に思い浮かべていた矢先、繋いで間もない自宅の電話機が着信を知らせるメロディを流した。

 自宅電話なんてほとんど鳴らないからドキリとする。近しい人からの連絡なら携帯に直接かけてくる。ならば変なセールスの類の電話だろうか。

 受話器を取るのに躊躇した。しつこい電話なら、週末にでも彼に対応してもらおうかと脳裏を過ったものの、引っ越しの際の役所などの手続きは全て自宅の電話番号を記載していた。この着信が、水道局や電力会社からの電話という可能性も皆無ではない。

 田中伊織の妻として、私は恐る恐る受話器を取り、耳に当てた。

「もしもし……」
「田中様のお宅でしょうか。私《わたくし》――」

 役所からの電話だった。

「本日、婚姻届を提出されたかと思いますが」

 婚姻届と聞いて、胸に激痛が走った。