大丈夫。その度、何度も何度も私は私自身に言い聞かせてきた。

 大学受験の時も、今の会社への入社の手続きの書類でも、田中伊織で問題になったことは一度たりともなかった。

 ――私は完璧に田中伊織なのだ。

 そう言い聞かせて、書類を書き上げ、月曜の朝に二人で役所に向かった。戸籍課で受付をして、順番を待つ。

 書類の受け渡しは案外と素っ気なかった。おめでとうございますと窓口の女性には言ってもらえたが、やはりどこか事務的だ。まぁ、初対面の縁もゆかりもない人間の婚姻届なので当たり前と言えば当たり前だが。

 方角が違うからと役所の前で彼と別れた。彼が帰宅するまでに少しでも片付けを進めようと部屋に戻った。

 食器を片付け、服をしまい、片した段ボールを潰していく。

 段ボールをいくらか潰し、少し場所ができた頃、時計に目をやれば夕方の4時を少し回っている。