結局あぐりに行く暇もなく私たちの結婚への段取りが進み始めたのは、私が社会人になって一年ほど後のことだ。

 まず彼を哲史に会わせた。哲史は表面上は父親ではあるものの、実際は父親ではないのだから、結婚を反対されることはない。

 それから半月ほど後に、今度は私が挨拶をする番になった。彼は両親を亡くしているから、親代わりの親戚のご夫婦に会いにいった。

 夫婦ともにとにかく人当たりが柔らかかった。威圧的なところはなく、常にニコニコしていた。

 くれぐれも伊織をお願いします。深々と頭を下げられ、私もまた床に着くくらいに頭を下げた。

 かくしてトントン拍子に結婚の話は進んだ。

 式場も日取りも決まると、いよいよ私は会社に結婚の報告をした。

「もしかして出来ちゃった?」

 それが上司の第一声。今更、出来ちゃった婚は珍しくもなんともない。ましてや正規雇用も減り、収入も上がらないご時世に、若者は結婚に慎重になっている。若いうちに結婚するにはきっかけが必要。だから上司の言葉もうなずける。

 いえ、違いますよ。はっきりと否定したが、上司の目は笑っていなかった。