そんなやり取りがいちいち胸をキュンキュンさせるのは、やはりクリスマス間近だからだろうか。

 ケーキも食べ終わり、コーヒーを飲んでいると、不意に彼が私の目の前に小さな箱を置いた。

 あまりに唐突で、リアクションできずに固まってしまった。

 完全に失態だ。今日は特別な日になる予感をしていたのに。だからこそ普段より気合を入れてメイクをして、この日のために買った服を着てきたのに。

 美味しい食事に夢中になっていたのが悪かった。頭の切り替えがうまくいかなかった。

「クリスマスプレゼントは一緒に選ぶんじゃなかったっけ?」

 苦し紛れに出てきた言葉。驚くでもなく喜ぶでもなく澄ましてしまったという間抜けさ。きっとこんな反応は可愛くない。後悔していたが、彼は意に介さないでいてくれたことがせめてもの救いだった。

「……開けてみて」

 彼に言われるがまま、箱を開けた。予想通り、中には指輪。緑色の宝石が見える。恐らくはペリドット。

 彼がネックレスをくれた時のペリドットの説明が脳裏に蘇る。黄緑色の宝石で、8月の誕生石。石言葉は、夫婦愛、運命の絆、平和、安心、幸福などなど。

 彼が私を真っ直ぐに見据えていた。とうとうこの瞬間が来た。胡桃山美月から田中伊織になって、思い返してみても、いいことずくめだった。人生は最終的にはプラスマイナスゼロなんだよと言ってたのは誰だっただろうか。美月の時のマイナス分を、今、伊織になって埋めていっているんだという実感。