「大丈夫ですよ。どうぞ」

 胸を撫で下ろす。

 通された席は窓際の見晴らしのいい席だった。目の前はカップルが行き交う目抜き通りだ。文字通りクリスマスイルミネーションが私と彼の食事を盛り上げてくれている。

 席に案内してくれたギャルソンがメニューを持ってきてくれた。しっかりとクロス巻き製本されたメニューは驚くほど重厚だ。藍色の表紙に、金色で店の名前がし刺繍《ししゅう》されたメニューを手にすると指が自然と震えた。

 一体どれくらい高価な金額が記載されているのだろうか。

「今日は遠慮しなくていいからね」
「うん……分かった」
 私は彼の大体の収入を知っている。有名芸能人や一流スポーツ選手のようなずば抜けた収入があるのならば、遠慮なくお言葉に甘えるところだが、入社して3年目が終わり、間もなく4年目に入ろうかと言うごく普通のサラリーマンでは、いくら特別な日であることを考慮しても、否が応でも"一般常識の範囲内"という枕詞が付随した頼み方しかできない。