彼が言い淀む。確かにカジュアルさで言えば彼の服装の方がより軽い。

 予約した本人でさえ不安な表情を浮かべているのだから、目を当てられない。

 予約した時間まであと10分。今更着替えることなんて不可能だ。

「とにかく行こう」

 彼に手を握られ、私も一歩目を踏み出した。

 重厚なドアを開け、入り口を入るや否や、ギャルソンが出迎えてくれた。

 高級店らしく品のいい、そして清潔感のある青年だ。多分、私たちとさして年も違わない。

 いらっしゃいませ。慇懃な深い礼が様になっている。

「本日、18時より予約していました田中です」
「田中様ですね? お待ちしておりました。どうぞ」
「あの……」

 どうにも場違いな感じかして、たまりかねて私は口を開いた。

「何でしょう?」
「私たち、こんなラフな格好で来ちゃったんですが、その……大丈夫ですか?」
「あぁ」

 ギャルソンは破顔する。