一度、張り切り過ぎて高いヒールのパンプスを履いて、足を捻ってしまったことがあった。足を引きずり、彼にも心配をかけて、おまけにパンプスまで台無しにして、散々な1日だった。

 調子に乗りすぎると同じことを繰り返してしまいかねない。大切な日になると確信しているからこそ、粗相はしたくない。

 待ち合わせは午前11時。駅へと向かう道すがら、ウィンドウに映る自分を見て、出来栄えを確認する。

 右へ左へ体の向きを変え、軽くポージング。よし、大丈夫。自然とそう言葉が漏れた。

 待ち合わせ場所に着いたのは時間の10分前だったが、既に彼の姿があった。

 ベージュのステンカラーコートの中には紺色のパーカー。下はジーンズにスニーカーという出で立ちだ。相変わらず爽やかだ。実は彼のスーツ姿に萌えたりしているが、やはり普段着もいい。

 目が合い、彼の顔に笑みが浮かぶ。手を振って走り寄り、私はそのまま彼の胸に飛び込んだ。仄かに香水の香り。

「お待たせ」

 そのまま見上げる形で彼の顔を見る。

「どうした? 今日はテンション高いなぁ」
「当たり前でしょ」