「バイト代上げてくれたら考えます」

 えー、そんなにこの店、余裕ないよぉ。おじさんをこれ以上イジメないでよ。

 散々泣き言を言われたが、ことごとく無視していたら、高校3年の夏以降から時給を50円アップしてくれる約束をしてくれた。

 就職活動は忙しそうだったが、彼はそれなりに時間を作ってくれたので、寂しい思いはしなくて済んだ。

 遠出というわけにはいかないが、近くのファミレスなんかでお茶をして、他愛もない会話を楽しんで、ちょっとわがまなんかを言って、彼を困らせて、その反応を人知れず楽しんで。そんな私なりには充実した時間を過ごすことができていた。

 春になると彼の頑張りが実を結び、複数の内定を貰っていた。

 残念ながら、第一希望だった大手文具メーカーは落ちてしまったが、地元の筆ペンをメインに作っている文具メーカーや、やはり地元の消しゴムばかりを作っているメーカーへの内定は貰っていて、この2つが有力な就職先の候補のようだ。