そう言われた時の快感。優越感。そうかな? まんざらでもないのに、大したことなさそうな顔をしてしまう自分のあざとさに、わずかな自己嫌悪を感じつつも、やはりどこか上から目線で周囲を見るようになると、その立ち位置を守りたくなる。

 実際、彼との交際は順調だった。

 タイミングが合えば、バイト前に待ち合わせをするようになった。時間はあまりなかったが、どうでもよかった。

 顔が見たい。おしゃべりがしたい。コンビニでも、いや極端に言えば道端でも、とにかく2人きりの時間を貪るように過ごし、一緒にバイト先に向かう。

 一緒に自転車を押してくるところをスタッフに目撃されれば、あれ? という顔をされることもあった。もちろん最初は偶然を装っていた。たまたま鉢合わせしたんだって。

 しかし、頻度が上がれば、チラホラと噂も立つ。

 そろそろ偶然て突き通すのが難しくなってきたと思い始めた頃、2人で自転車置き場から店に向かう途中に、桜木と鉢合わせした。

「あれぇ、2人で同伴? なんちてぇ」

 桜木のテンションは普段から高い。

「ちょっと小耳に挟んだんたけど、2人って付き合ってるの?」
「実はそうなんです」

 適当にごまかせばいいものの、彼は肯定した。あまり駆け引きをしないところが、彼のいいところの一つではあるし、さっさとバレたことでどこか心が軽くなったのもまた事実だ。