突然、美来のレクチャーが始まった。相手をその気にさせて、告白まで持っていく壮大なるシナリオ。

 いや、私には壮大でも美来には造作もないことなんだろう。実際、美来は簡単そうに話す。こうすればイチコロだからとか、ボディタッチを増やすのだとか。しまいには私を男の子に見立てて、実践まで見せてくれた。

 腕を絡めて頭を預けた、しばし後に上目遣いに私を見る。女の私でさえクラクラした。確かに美来なら男なんてイチコロなんだろう。

「簡単でしょ?」

 私はただ首を横に振った。

 女優じゃないのだ。とても無理。

「最初からは誰もうまくできないよ。とにかく練習してみようよ」

 何度かレクチャーに付き合わされ、最初よりはマシになったからとその日は解放された。

 しかし、そんな努力虚しく、彼とは何もないまま十月に入った。

 季節はもう秋だ。筋雲か空を覆う日も増えていたし、朝晩はかなり涼しい。一方で昼間との温度差に服装が困る季節でもある。