今は片田舎のオンボロアパートに母と二人でひっそりと暮らしている。忌々しい胡桃山の名字のまま、私は恐る恐る中学に通い、母は部品工場のパートをして、何とか細々と生計を立てている。

 何度も母に名字を変えるよう進言した。やむを得ない理由がある時は、名字を変えることができることを、学校のパソコン室で調べて知っていたから。

 でも母は頑として私の申し出を受け入れようとしなかった。

「それでは私たちが負けたことになるでしょ。お父さんは何も悪いことしてないんだから、堂々としていればいいのよ」

 堂々としていればいいのなら、どうして逃げるように住所を転々としているのかと問いただしたかったものの、最近、母は強く言われることに対してめっきり弱くなった。ついつい口ゲンカになり――大抵は私が言い負かし――母が私に隠れてメソメソ泣いていることに気づいてからは、私は母に強く言えなくなっていた。