美来が席を離れたのをきっかけに、周囲の視線の呪縛からも解放される。

 一人の安寧な空間を取り戻し、ホッと一息つきたいところだが、昨日のことが頭から離れなかった。

 昨日繋がれた手の感触はまだ残っている。あれはどういう意味だったのかと今でも思う。バイト先では何度か視線を合わせたが、もちろん会話はしていない。

 胸の引っかかりは寝ても解消せず、起きるとすぐに彼にメッセージを送った。ストレートに聞くだけの勇気はなかったから、最初はあくまで普段通り。

 おはよう。朝から学校かったるいね。

 返事が来るまでの間に、ブラウザを立ち上げネットで調べものをする。

 男の子はどんな時に女の子と手を繋ごうとするものなのか。いや、そもそも男の子は女の子なら誰とでも手を繋ぐのか。

 調べても答えらしい答えは見つからない。画面とにらめっこしている間に、彼から返事があった。

 おはよう。僕は今日の学校は午後からだから、まったりしてるよ。

 普段通り過ぎる内容。困惑。戸惑い。いや、またやり取りは始まったばかりだ。

 ゆったりでいいね、大学生は。今はたまたま落ち着いてるけど、レポートで忙しい時もあるよ。いつ、忙しいの? さぁ。教授次第?

 結局、手を繋いだことに関しては触れられないまま、メッセージのやり取りを何度か繰り返し、そのまま学校に来てしまった。

 そして机に着くや否や、美来に言い寄られたというわけだ。