見る映画は決まっていて――だから一緒に見に行こうって話になったわけだし――、次の上演時間の席の予約を取った。まだ一時間ほど時間があるからショッピングモールに入っているカフェでお茶をした。

 一人だと退屈するであろう一時間も、彼と一緒ならあっという間だった。

 大学の友達に彼女ができて、紹介してもらったら、髪の毛の色が黄色とピンクのあまりのパンクな彼女で驚いてしまったこと。なのに性格はむしろ穏やかで、最近、茶道にハマってしまって、茶道教室に通っていること。

 彼は話題が豊富で飽きさせない。

「学校の方はどう?」

 私の話題へと移る。

「まぁまぁかな」

 できるだけ具体的な話は避ける癖がついていた。胡桃山美月から田中伊織になったことは絶対にバレるわけにはいかない。彼に会えなくなってしまう。逃げ続ける人生に戻ってしまう。

「部活は美術部だったっけ? 絵は描いてるの?」
「ううん、全然。大したお絵描きもできない」