既に炎天下を思わせる日差しを、どうにかこうにか麦わら帽子が遮ってくれている。見様見真似でメイクもしていた。とは言ってもファンデーションを塗って口紅をひいただけ。

 実は朝からあれこれと格闘したのだ、ネットで調べたHow toページを開きながら、スマホの画面を何度も何度も見直して。

 結果は惨敗だった。見るも無残な状態に、一度リセットし、最低限で済ませることにした。

 ファンデーションが汗で崩れないか不安になりかけた頃、ごめんごめんと彼が小走りでやってきた。

「いお、待った?」
「少しね」

 この頃になるとお互いがタメ口になっていた。直接話をする機会自体はそんなに多くはない。バイト中も、ホールとキッチンでは話す内容は限られる。それでも、毎日のように繰り返されているメッセージアプリでのやり取りが、それを補って余らせている。

 ちなみに私と彼は同じ名前だから、お互いの呼び方も決めている。私は"いお"と呼ばれていて、私は彼を"いっくん"と呼んでいる。もちろんバイト先では内緒の話だ。隠すようなことでもないが、わざわざ公表することでもないというのが、私と彼の共通認識。

「お!何かいつもと違うね」

 私の姿を見た途端、彼の顔がほころんだ。

「どう?」

 軽くポーズを取ってみる。