さやかの瞳が潤んでいる。
三軒茶屋の交差点近く、玉川通りに停めたクルマの助手席から賢介を見つめている。
時計の針は午前一時をまわっていた。
このまま彼女を降ろすか。さらに深い夜へ連れ去るか。賢介の頭の中で、思考が揺れる。
天気に恵まれた月曜日、初めて二人で遠出をした。行先は湘南。さやかも賢介もフリーランスの仕事なので、平日にスケジュールを合わせた。
賢介の運転で、第三京浜、横浜新道、横浜横須賀道路を走り、朝比奈インターチェンジで下りて鎌倉へ。金沢街道沿いの浄明寺と報国寺に寄り、逗子の小坪方面へ南下した。
小坪漁港には、賢介のお気に入りのイタリアンレストランがある。二十席ほどの小さな店だが、目の前の海に揚がる生シラスのパスタや鯵や鯖など地の魚のカルパッチョが抜群だ。その店で食事をして都内へ戻った。
賢介のクルマは十年落ちのブルーバード シルフィだ。三万キロちょっとしか走っていないのでエンジンは元気だが、運転が下手なので、あちこちに小さな傷がある。シャンパンゴールドだったボディは日焼けで色あせて、いつのまにかグレイになった。それでもさやかは嫌がる素振りを見せず、窓の外を流れる景色を楽しんでいた。
彼女は三軒茶屋の賃貸マンションに一人暮らしで、一DKの部屋に二台のキーボードを詰め込んで、曲作りをしているという。
「わたしのうち、居住空間がほとんどないの」
初めて食事をしたとき、恥ずかしそうに打ち明けた。
「まだ帰したくないんだけど……」
賢介は勇気をふり絞って意思を伝えた。断られたらそれはそれで仕方がない。脈がなかったということだ。
「わたし、も……」
その言葉を聞くなり、賢介はサイドブレーキを解除し、アクセルを踏んだ。
三宿、池尻と、国道二四六号線を無言のまま飛ばしていく。ラブホテル街を目指す。気の利いたシティーホテルを選んで空室状況を確認する余裕などない。
神泉の交差点を過ぎ、左へ車線変更する。道玄坂上の交差点で、さらにハンドルを左に切ると、円山町のホテル街だ。そのことにさやかが気づいていないはずはない。
彼女の無言を同意と解釈した賢介は、減速しながら路地へ入っていく。やがてけばけばしいネオンに包まれる。円山町は何十年ぶりだろうか。
月曜日の深夜だというのに、赤い「満室」の表示が続く。あせりが増す。路地に入って五軒目か六軒目か、ようやく青い「空室」表示を見つけた。
紫色の「ホテル サンレモ」という看板の下の駐車場にクルマをすべらせる。駐車枠はすでに一つしか残っていなかった。両隣のクルマにぶつけないように駐車する。賢介のあとをさやかは黙ったままついてきた。
フロント横にある部屋のパネル写真を確認する。空室表示は三部屋。その中からもっともシンプルな三〇二号室を賢介は選んだ。
「この時間はご休憩はお受けしていなので、ご宿泊料金をいただきます」
フロントの窓から年配の女性の事務的な声が響いた。窓口の上部にガードがあり、顔はあごから下しか見えない。こういうホテルは事務的なことが肝要だ。
「右手のエレベーターで三階にお上がりください」
やはり事務的に部屋のキーを手渡された。
エレベーターの中で、賢介はがまんしきれずにさやかを抱き寄せる。彼女は抗わない。ジャケットにファウンデーションがつくことも気にせず、賢介はさらに強く抱きしめた。
ベッドまで待てない賢介は、部屋に入るなりさやかの唇を強く吸った。
「シャワー、浴びたい……」
アニメシンガーのさやかが高音域の声でうったえるが、賢介は気づかぬふりで、右手で首を抱き、左手で小ぶりの胸を包むようにして触れる。
「汗かいてて、恥ずかしい……」
その声も無視して、左手をゆっくりと動かす。胸の先端がブラジャーの上からもわかるほどコリッと硬くなっている。
「あっ……」
さやかが一段と高い声を発した。賢介は彼女の胸に直にふれようと、ブラジャーの内側に手をすべり込ませ、指を這わせる。息づかいが荒くなっていく。
賢介は細身のさやかを抱き上げ、そのままベッドまで運び、今度は覆いかぶさるように抱きしめる。
ブラウスのボタンをはずす。荒々しく胸を吸う。左手を下に伸ばす。さやかが十分に潤っていることが、小さな下着の上からわかった。
その時、下目づかいの賢介の視界に見慣れない模様があることに気づいた。さやかの白地のショーツには、小さなかわいらしいイチゴがプリントされていた。
大人用のショーツにもイチゴのプリントなんてあるのか? どこで買うんだ? フルーツデザインの下着をつける三十七歳の気持ちが賢介には理解できなかった。
早くさやかの中に入りたい。しかし、硬くなりきっていないことに賢介はあせりを覚えた。通常のサイズよりは膨張している。でも、自分の最大値には遠い。
この状態で挿入できるだろうか? 不安はぬぐえない。それでもやめるわけにはいかない。
賢介はさやかのイチゴのショーツを脚からとりさった。
「私だけ裸なの、恥ずかしい」
請うようなまなざしを向けるさやかに応じて、謙介もすばやく服を脱ぎ取る。下着もとると、そこに現れた賢介のものは思っていたとおり七、八分の仕上がりである。
理由はわかっていた。声だ。さやかの高音域が賢介の欲望にブレーキをかけていた。彼女は、三十代の十分に成熟した女だ。なのに、声がアニメ系なので、賢介は少女にいたずらをしている気分になる。それが、賢介に待ったをかけている。イチゴのプリントを見てしまったことが、さらに気持ちを萎えさせた。
しかし、このまま後に引くわけにはいかない。賢介は下半身をよじり、さやかの視界に入らないように自分のものをしごいた。
〈硬くなれ!〉
心の中で念じた。
「ほしい……」
さやかが切ない声をもらす。
「うん……」
言葉では応じるものの、賢介の体は準備が整っていない。
さらに強くしごく。
「じらさないで……」
「うん……」
〈硬くなれ!〉
賢介は念じる。
少しはましな状態になった気がする。
「お願い……」
さやかの脚の内側が体内からあふれた液体で光っている。
これ以上先延ばしにはできない。賢介は決断した。中途半端なままのものをさやかの中に挿入する。
〈入ったか? 入ったのか?〉
心の中で自分に問いかける。
よく潤った温かい粘膜を感じる。大丈夫だ。挿入できている。賢介は一度腰を引き、十分なテイクバックを意識して再度ゆっくりとさやかを突いた。
「あっ……」
声をもらすさやかを上目づかいに確認して、もう一度腰をふる。
「あっ……」
さらに切なげな声。やはり高音域だ。アニメ声がどうしようもなく賢介の士気を低下させる。
そして、そこまでだった。
賢介は衰え、さやかの中で力を維持できず、するりと抜けた。
「あっ!」
さやかがそれまでとは別のニュアンスの声を発した。賢介の額にいやな汗がにじむ。
「ありゃ?」
自分の狼狽を悟られないように、賢介はおどけ、さやかの視界に入らないところで、また自分のものをしごく。
さやかは目を閉じたまま、無言だ。
動作を悟られないように賢介はしごき続ける。
「ちょっと待っててね」
沈黙に耐え切れず言葉をかけると、さやかが目を閉じたままうなずいた。
賢介はさらに気合いを入れてしごく。しかし、その気合いが逆効果なのか、さっきよりもサイズダウンした気がする。あせればあせるほど、力を失う。悪循環だ。
「私がしてあげようか?」
気づくと、さやかが上半身を起こして賢介の手の動作を眺めていた。
「えっ? いや、大丈夫」
「ほんとに?」
「自分でなんとかするから」
やんわりと断ったが、さやかは身を乗り出し、賢介のものに右手をそえ、上下運動をはじめた。
「私がしたほうがいいと思う」
力を失ったものをいたわるようにしごく。賢介はバツが悪い。
さやかの努力もむなしく、賢介に力は戻らない。戻りかけるのだが、すぐに衰える。
羞恥から申し訳なさへ。申し訳なさから情けなさへ。賢介は体だけではなく、気持ちも衰えていく。
「今日は、もう、無理なんじゃないかな」
弱気になる。
「もう少し頑張ってみようよ」
さやかの声はなおアニメ系だ。
「初めての人にはしないんだけど……」
言い訳をするように、さやかはやがて賢介のものを口にふくみ、ゆっくりと首をふり始めた。唾液があふれて、口がちゅぽちゅぽと小さく音をたてる。
さやかの豊かな髪から、甘い汗の匂いがした。髪の揺れは激しさを増し、ちゅぽちゅぽの音も大きくなっていく。しかし、賢介が力を取り戻すことはなかった。
三軒茶屋の交差点近く、玉川通りに停めたクルマの助手席から賢介を見つめている。
時計の針は午前一時をまわっていた。
このまま彼女を降ろすか。さらに深い夜へ連れ去るか。賢介の頭の中で、思考が揺れる。
天気に恵まれた月曜日、初めて二人で遠出をした。行先は湘南。さやかも賢介もフリーランスの仕事なので、平日にスケジュールを合わせた。
賢介の運転で、第三京浜、横浜新道、横浜横須賀道路を走り、朝比奈インターチェンジで下りて鎌倉へ。金沢街道沿いの浄明寺と報国寺に寄り、逗子の小坪方面へ南下した。
小坪漁港には、賢介のお気に入りのイタリアンレストランがある。二十席ほどの小さな店だが、目の前の海に揚がる生シラスのパスタや鯵や鯖など地の魚のカルパッチョが抜群だ。その店で食事をして都内へ戻った。
賢介のクルマは十年落ちのブルーバード シルフィだ。三万キロちょっとしか走っていないのでエンジンは元気だが、運転が下手なので、あちこちに小さな傷がある。シャンパンゴールドだったボディは日焼けで色あせて、いつのまにかグレイになった。それでもさやかは嫌がる素振りを見せず、窓の外を流れる景色を楽しんでいた。
彼女は三軒茶屋の賃貸マンションに一人暮らしで、一DKの部屋に二台のキーボードを詰め込んで、曲作りをしているという。
「わたしのうち、居住空間がほとんどないの」
初めて食事をしたとき、恥ずかしそうに打ち明けた。
「まだ帰したくないんだけど……」
賢介は勇気をふり絞って意思を伝えた。断られたらそれはそれで仕方がない。脈がなかったということだ。
「わたし、も……」
その言葉を聞くなり、賢介はサイドブレーキを解除し、アクセルを踏んだ。
三宿、池尻と、国道二四六号線を無言のまま飛ばしていく。ラブホテル街を目指す。気の利いたシティーホテルを選んで空室状況を確認する余裕などない。
神泉の交差点を過ぎ、左へ車線変更する。道玄坂上の交差点で、さらにハンドルを左に切ると、円山町のホテル街だ。そのことにさやかが気づいていないはずはない。
彼女の無言を同意と解釈した賢介は、減速しながら路地へ入っていく。やがてけばけばしいネオンに包まれる。円山町は何十年ぶりだろうか。
月曜日の深夜だというのに、赤い「満室」の表示が続く。あせりが増す。路地に入って五軒目か六軒目か、ようやく青い「空室」表示を見つけた。
紫色の「ホテル サンレモ」という看板の下の駐車場にクルマをすべらせる。駐車枠はすでに一つしか残っていなかった。両隣のクルマにぶつけないように駐車する。賢介のあとをさやかは黙ったままついてきた。
フロント横にある部屋のパネル写真を確認する。空室表示は三部屋。その中からもっともシンプルな三〇二号室を賢介は選んだ。
「この時間はご休憩はお受けしていなので、ご宿泊料金をいただきます」
フロントの窓から年配の女性の事務的な声が響いた。窓口の上部にガードがあり、顔はあごから下しか見えない。こういうホテルは事務的なことが肝要だ。
「右手のエレベーターで三階にお上がりください」
やはり事務的に部屋のキーを手渡された。
エレベーターの中で、賢介はがまんしきれずにさやかを抱き寄せる。彼女は抗わない。ジャケットにファウンデーションがつくことも気にせず、賢介はさらに強く抱きしめた。
ベッドまで待てない賢介は、部屋に入るなりさやかの唇を強く吸った。
「シャワー、浴びたい……」
アニメシンガーのさやかが高音域の声でうったえるが、賢介は気づかぬふりで、右手で首を抱き、左手で小ぶりの胸を包むようにして触れる。
「汗かいてて、恥ずかしい……」
その声も無視して、左手をゆっくりと動かす。胸の先端がブラジャーの上からもわかるほどコリッと硬くなっている。
「あっ……」
さやかが一段と高い声を発した。賢介は彼女の胸に直にふれようと、ブラジャーの内側に手をすべり込ませ、指を這わせる。息づかいが荒くなっていく。
賢介は細身のさやかを抱き上げ、そのままベッドまで運び、今度は覆いかぶさるように抱きしめる。
ブラウスのボタンをはずす。荒々しく胸を吸う。左手を下に伸ばす。さやかが十分に潤っていることが、小さな下着の上からわかった。
その時、下目づかいの賢介の視界に見慣れない模様があることに気づいた。さやかの白地のショーツには、小さなかわいらしいイチゴがプリントされていた。
大人用のショーツにもイチゴのプリントなんてあるのか? どこで買うんだ? フルーツデザインの下着をつける三十七歳の気持ちが賢介には理解できなかった。
早くさやかの中に入りたい。しかし、硬くなりきっていないことに賢介はあせりを覚えた。通常のサイズよりは膨張している。でも、自分の最大値には遠い。
この状態で挿入できるだろうか? 不安はぬぐえない。それでもやめるわけにはいかない。
賢介はさやかのイチゴのショーツを脚からとりさった。
「私だけ裸なの、恥ずかしい」
請うようなまなざしを向けるさやかに応じて、謙介もすばやく服を脱ぎ取る。下着もとると、そこに現れた賢介のものは思っていたとおり七、八分の仕上がりである。
理由はわかっていた。声だ。さやかの高音域が賢介の欲望にブレーキをかけていた。彼女は、三十代の十分に成熟した女だ。なのに、声がアニメ系なので、賢介は少女にいたずらをしている気分になる。それが、賢介に待ったをかけている。イチゴのプリントを見てしまったことが、さらに気持ちを萎えさせた。
しかし、このまま後に引くわけにはいかない。賢介は下半身をよじり、さやかの視界に入らないように自分のものをしごいた。
〈硬くなれ!〉
心の中で念じた。
「ほしい……」
さやかが切ない声をもらす。
「うん……」
言葉では応じるものの、賢介の体は準備が整っていない。
さらに強くしごく。
「じらさないで……」
「うん……」
〈硬くなれ!〉
賢介は念じる。
少しはましな状態になった気がする。
「お願い……」
さやかの脚の内側が体内からあふれた液体で光っている。
これ以上先延ばしにはできない。賢介は決断した。中途半端なままのものをさやかの中に挿入する。
〈入ったか? 入ったのか?〉
心の中で自分に問いかける。
よく潤った温かい粘膜を感じる。大丈夫だ。挿入できている。賢介は一度腰を引き、十分なテイクバックを意識して再度ゆっくりとさやかを突いた。
「あっ……」
声をもらすさやかを上目づかいに確認して、もう一度腰をふる。
「あっ……」
さらに切なげな声。やはり高音域だ。アニメ声がどうしようもなく賢介の士気を低下させる。
そして、そこまでだった。
賢介は衰え、さやかの中で力を維持できず、するりと抜けた。
「あっ!」
さやかがそれまでとは別のニュアンスの声を発した。賢介の額にいやな汗がにじむ。
「ありゃ?」
自分の狼狽を悟られないように、賢介はおどけ、さやかの視界に入らないところで、また自分のものをしごく。
さやかは目を閉じたまま、無言だ。
動作を悟られないように賢介はしごき続ける。
「ちょっと待っててね」
沈黙に耐え切れず言葉をかけると、さやかが目を閉じたままうなずいた。
賢介はさらに気合いを入れてしごく。しかし、その気合いが逆効果なのか、さっきよりもサイズダウンした気がする。あせればあせるほど、力を失う。悪循環だ。
「私がしてあげようか?」
気づくと、さやかが上半身を起こして賢介の手の動作を眺めていた。
「えっ? いや、大丈夫」
「ほんとに?」
「自分でなんとかするから」
やんわりと断ったが、さやかは身を乗り出し、賢介のものに右手をそえ、上下運動をはじめた。
「私がしたほうがいいと思う」
力を失ったものをいたわるようにしごく。賢介はバツが悪い。
さやかの努力もむなしく、賢介に力は戻らない。戻りかけるのだが、すぐに衰える。
羞恥から申し訳なさへ。申し訳なさから情けなさへ。賢介は体だけではなく、気持ちも衰えていく。
「今日は、もう、無理なんじゃないかな」
弱気になる。
「もう少し頑張ってみようよ」
さやかの声はなおアニメ系だ。
「初めての人にはしないんだけど……」
言い訳をするように、さやかはやがて賢介のものを口にふくみ、ゆっくりと首をふり始めた。唾液があふれて、口がちゅぽちゅぽと小さく音をたてる。
さやかの豊かな髪から、甘い汗の匂いがした。髪の揺れは激しさを増し、ちゅぽちゅぽの音も大きくなっていく。しかし、賢介が力を取り戻すことはなかった。