長い睫毛に彩られたアーモンド型の優希の目が、『ブス』のところでチラッとナオを見る。
「ボクはね、我が手で作る作品を、この完璧なボディに着せて究極の品に仕上げているんだ。そのための努力は惜しまない。どう、今回の作品? 凄く可愛いでしょう?」
ランウェイを歩くモデルのように、ナオの前を行き過ぎ、優希は美しくターンをして、再びナオの前まで来ると立ち止まった。
「だからね、ボクにお洋服を作ってもらいたかったら……」
『犯人はお前だ!』とでもいうように、優希はドヤ顔でナオを指差し言った。「君はもっと努力するべきだ!」と。
――この人も……変人だ。
「お言葉ですが、私、貴方に洋服を作ってくれと頼んだ覚えはありません」
優希の顔が見る間に真っ赤に上気する。羞恥心からではない、怒りからだ。
「君、ボクのこの洋服を見て、作って欲しくないとでも言うの?」
「あーあっ、怒らせちゃった」
突然、どこからともなく聞こえた可愛い声は、当然、朔のではない。
「貴女、バカでしょう?」
ダイニングの方の壁から出てきたのは、セーラー服姿とお団子頭がよく似合う、とてもキュートな少女だった。
「朔、ただいまぁ」
その子が朔にダッシュで駆け寄り抱き付いた。
「こいつが最後の一人。滝本マリナ。俺の従妹。今、中二だ」
朔は表情も変えず彼女を紹介し終えると、「暑い、離せ」とマリナの腕を振り解いた。
「もう、朔ったらクールなんだから」
それでもめげずにマリナは朔の腕に自分の腕を絡める。
「――朝田ナオです。よろしくお願いします」
そんなやり取りを見ながら、ナオは何度目かの自己紹介をする。
「貴女、高三だって? 見えないわね」
「確かに、マリナの方が年食って見える」
「それ、大人っぽいって褒めてるのよね?」
「当然だよ」
優希がエヘッと誤魔化し笑いをする。
「こいつは見たとおり、服飾専門学校の一年生。日々過ごしていると分かると思うが、カメレオンみたいな奴だ。マリナも見た目どおりのませガキ。それはいいとして」
二人を無視するように朔が説明を続ける。
「朝食は午前七時。夕食は午後七時。玄関のドアは暗証キーで開く。暗証キーは朝食時に教える。朝食を食べ損なうイコール暗証キーが分からない。気を付けろ」
「今、シェアハウスってこんなのだっけって思ったでしょう?」
マリナがナオの心を読んだように訊ねる。
「賄い付きのシェアハウスだと思えばいい。一つ屋根の下に住むということは家族も同じだ。家というものは――」
「ストップ!」優希が朔の言葉を遮った。
「本人からもう聞いたかもしれないけど、朔は二十五歳と若いけど、けっこう有名な建築家なんだ」
聞いていない、とナオが首を横に振る。
「そうかぁ、この人に建築物を語らせたらしつこいからねっ、気を付けて」
先程のお返しとばかりそう言って、「じゃあ」と優希が朔を紹介する。
それによると、朔は十代前半で単身海を渡り歩き、あちこちの大学を飛び級で主席卒業した『建築界の鬼才』らしい。当然、建築学の博士号も持っているとのことだ。
「あぁぁ! リノベーション」だから、あんなに熱く語っていたのかと、ナオは彼の饒舌ぶりを理解する。
「ボクはね、我が手で作る作品を、この完璧なボディに着せて究極の品に仕上げているんだ。そのための努力は惜しまない。どう、今回の作品? 凄く可愛いでしょう?」
ランウェイを歩くモデルのように、ナオの前を行き過ぎ、優希は美しくターンをして、再びナオの前まで来ると立ち止まった。
「だからね、ボクにお洋服を作ってもらいたかったら……」
『犯人はお前だ!』とでもいうように、優希はドヤ顔でナオを指差し言った。「君はもっと努力するべきだ!」と。
――この人も……変人だ。
「お言葉ですが、私、貴方に洋服を作ってくれと頼んだ覚えはありません」
優希の顔が見る間に真っ赤に上気する。羞恥心からではない、怒りからだ。
「君、ボクのこの洋服を見て、作って欲しくないとでも言うの?」
「あーあっ、怒らせちゃった」
突然、どこからともなく聞こえた可愛い声は、当然、朔のではない。
「貴女、バカでしょう?」
ダイニングの方の壁から出てきたのは、セーラー服姿とお団子頭がよく似合う、とてもキュートな少女だった。
「朔、ただいまぁ」
その子が朔にダッシュで駆け寄り抱き付いた。
「こいつが最後の一人。滝本マリナ。俺の従妹。今、中二だ」
朔は表情も変えず彼女を紹介し終えると、「暑い、離せ」とマリナの腕を振り解いた。
「もう、朔ったらクールなんだから」
それでもめげずにマリナは朔の腕に自分の腕を絡める。
「――朝田ナオです。よろしくお願いします」
そんなやり取りを見ながら、ナオは何度目かの自己紹介をする。
「貴女、高三だって? 見えないわね」
「確かに、マリナの方が年食って見える」
「それ、大人っぽいって褒めてるのよね?」
「当然だよ」
優希がエヘッと誤魔化し笑いをする。
「こいつは見たとおり、服飾専門学校の一年生。日々過ごしていると分かると思うが、カメレオンみたいな奴だ。マリナも見た目どおりのませガキ。それはいいとして」
二人を無視するように朔が説明を続ける。
「朝食は午前七時。夕食は午後七時。玄関のドアは暗証キーで開く。暗証キーは朝食時に教える。朝食を食べ損なうイコール暗証キーが分からない。気を付けろ」
「今、シェアハウスってこんなのだっけって思ったでしょう?」
マリナがナオの心を読んだように訊ねる。
「賄い付きのシェアハウスだと思えばいい。一つ屋根の下に住むということは家族も同じだ。家というものは――」
「ストップ!」優希が朔の言葉を遮った。
「本人からもう聞いたかもしれないけど、朔は二十五歳と若いけど、けっこう有名な建築家なんだ」
聞いていない、とナオが首を横に振る。
「そうかぁ、この人に建築物を語らせたらしつこいからねっ、気を付けて」
先程のお返しとばかりそう言って、「じゃあ」と優希が朔を紹介する。
それによると、朔は十代前半で単身海を渡り歩き、あちこちの大学を飛び級で主席卒業した『建築界の鬼才』らしい。当然、建築学の博士号も持っているとのことだ。
「あぁぁ! リノベーション」だから、あんなに熱く語っていたのかと、ナオは彼の饒舌ぶりを理解する。