「何帖あるんだろう?」
部屋はゆったりしていた。置いてある家具はシングルベッドとデスク、チェストとローテーブル、それに本棚があるだけ。
「北向きだけど……」
大きな窓と明かり取りの天窓があるからか、陰気な感じはしなかった。むしろ、何者にも扇動されない静穏とした安らぎをナオは覚えた。
「――この部屋、凄くいい!」
ナオの顔がフワリと綻ぶが、チェストの奥に目が留まるとそこにあるドアが気になった。
「何のドアだろう? クローゼットかな?」
電気のスイッチをオンにすると――思った通りだった。
「まるでブティックみたい」
三帖ほどの小部屋だったが、使い勝手の良さそうなウォークインクローゼットだった。
「でも、こんな広い場所に何を置けと?」
ポールに掛かったハンガーを指先で弾き、ナオは壁の大きな鏡に向かってイーと歯を剥き出した。
――やっぱりね。
想像どおり、荷解きした箱の中身を仕舞っても、埋まったスペースは僅かだった。
「何だか無性に虚しく感じるのは気のせい?」
そう言えば……と優希の言葉を思い出したナオは、クローゼットを出て、改めてベッドを眺めた。
「このベッドカバーと枕カバーを彼が作ったと?」
よく見るとカーテンも同じ生地だった。
「――変人だけど、腕は確かみたい」
ゴロリとベッドに横になると、深緑の枕カバーから微かに緑の香りがした。
「きっと、柔軟剤か何かで香り付けをしたんだ」
心憎いばかりの演出に、ナオの頬がキューッと上がる。
「――ありがとうって言わなきゃ。でも……言えるかなぁ……」
そんなことを思いながらナオは瞼を閉じた。
*
「起きろ、朝だ、ナオ!」
「――お兄ちゃん……あと五分……」
「誰が、お兄ちゃんだぁ?」
えっ……? 怒りを含んだ声に驚き、ナオの目が覚める。
「うわっ! 痴漢!」
「お前、いい加減にしろ、誰が痴漢だ?」
「へっ?」
パチパチと瞬きを繰り返すナオの目に、目くじらを立てた朔が映る。
「えっ、あっ? どうして部屋に? まさか……」
ナオの手がギュッと掛け布団を握る。
「はぁ? 何が“まさか”だ! まさかも、もしかしてもない! お前を襲うなんてことは地球が滅びてもない」
「だったら、何故ここに?」
「お前が起きてこないからだろ。夕飯すっぽかしやがって。まぁ、昨日は疲れてると思って放っておいたがな」
――ということは、十五時間以上寝ていたことになる。
「嘘っ……」
そう言えば、とナオはお腹に手を当て、グルルと鳴る腹の虫に気付く。
「どうやら状況が分かったようだな。なら、さっさと起きろ!」
部屋はゆったりしていた。置いてある家具はシングルベッドとデスク、チェストとローテーブル、それに本棚があるだけ。
「北向きだけど……」
大きな窓と明かり取りの天窓があるからか、陰気な感じはしなかった。むしろ、何者にも扇動されない静穏とした安らぎをナオは覚えた。
「――この部屋、凄くいい!」
ナオの顔がフワリと綻ぶが、チェストの奥に目が留まるとそこにあるドアが気になった。
「何のドアだろう? クローゼットかな?」
電気のスイッチをオンにすると――思った通りだった。
「まるでブティックみたい」
三帖ほどの小部屋だったが、使い勝手の良さそうなウォークインクローゼットだった。
「でも、こんな広い場所に何を置けと?」
ポールに掛かったハンガーを指先で弾き、ナオは壁の大きな鏡に向かってイーと歯を剥き出した。
――やっぱりね。
想像どおり、荷解きした箱の中身を仕舞っても、埋まったスペースは僅かだった。
「何だか無性に虚しく感じるのは気のせい?」
そう言えば……と優希の言葉を思い出したナオは、クローゼットを出て、改めてベッドを眺めた。
「このベッドカバーと枕カバーを彼が作ったと?」
よく見るとカーテンも同じ生地だった。
「――変人だけど、腕は確かみたい」
ゴロリとベッドに横になると、深緑の枕カバーから微かに緑の香りがした。
「きっと、柔軟剤か何かで香り付けをしたんだ」
心憎いばかりの演出に、ナオの頬がキューッと上がる。
「――ありがとうって言わなきゃ。でも……言えるかなぁ……」
そんなことを思いながらナオは瞼を閉じた。
*
「起きろ、朝だ、ナオ!」
「――お兄ちゃん……あと五分……」
「誰が、お兄ちゃんだぁ?」
えっ……? 怒りを含んだ声に驚き、ナオの目が覚める。
「うわっ! 痴漢!」
「お前、いい加減にしろ、誰が痴漢だ?」
「へっ?」
パチパチと瞬きを繰り返すナオの目に、目くじらを立てた朔が映る。
「えっ、あっ? どうして部屋に? まさか……」
ナオの手がギュッと掛け布団を握る。
「はぁ? 何が“まさか”だ! まさかも、もしかしてもない! お前を襲うなんてことは地球が滅びてもない」
「だったら、何故ここに?」
「お前が起きてこないからだろ。夕飯すっぽかしやがって。まぁ、昨日は疲れてると思って放っておいたがな」
――ということは、十五時間以上寝ていたことになる。
「嘘っ……」
そう言えば、とナオはお腹に手を当て、グルルと鳴る腹の虫に気付く。
「どうやら状況が分かったようだな。なら、さっさと起きろ!」