「何帖あるんだろう?」

部屋はゆったりしていた。置いてある家具はシングルベッドとデスク、チェストとローテーブル、それに本棚があるだけ。

「北向きだけど……」

大きな窓と明かり取りの天窓があるからか、陰気な感じはしなかった。むしろ、何者にも扇動されない静穏とした安らぎをナオは覚えた。

「――この部屋、凄くいい!」

ナオの顔がフワリと綻ぶが、チェストの奥に目が留まるとそこにあるドアが気になった。

「何のドアだろう? クローゼットかな?」

電気のスイッチをオンにすると――思った通りだった。

「まるでブティックみたい」

三帖ほどの小部屋だったが、使い勝手の良さそうなウォークインクローゼットだった。

「でも、こんな広い場所に何を置けと?」

ポールに掛かったハンガーを指先で弾き、ナオは壁の大きな鏡に向かってイーと歯を剥き出した。

――やっぱりね。

想像どおり、荷解きした箱の中身を仕舞っても、埋まったスペースは僅かだった。

「何だか無性に虚しく感じるのは気のせい?」

そう言えば……と優希の言葉を思い出したナオは、クローゼットを出て、改めてベッドを眺めた。

「このベッドカバーと枕カバーを彼が作ったと?」

よく見るとカーテンも同じ生地だった。

「――変人だけど、腕は確かみたい」

ゴロリとベッドに横になると、深緑の枕カバーから微かに緑の香りがした。

「きっと、柔軟剤か何かで香り付けをしたんだ」

心憎いばかりの演出に、ナオの頬がキューッと上がる。

「――ありがとうって言わなきゃ。でも……言えるかなぁ……」

そんなことを思いながらナオは瞼を閉じた。



「起きろ、朝だ、ナオ!」
「――お兄ちゃん……あと五分……」
「誰が、お兄ちゃんだぁ?」

えっ……? 怒りを含んだ声に驚き、ナオの目が覚める。

「うわっ! 痴漢!」
「お前、いい加減にしろ、誰が痴漢だ?」
「へっ?」

パチパチと瞬きを繰り返すナオの目に、目くじらを立てた朔が映る。

「えっ、あっ? どうして部屋に? まさか……」

ナオの手がギュッと掛け布団を握る。

「はぁ? 何が“まさか”だ! まさかも、もしかしてもない! お前を襲うなんてことは地球が滅びてもない」

「だったら、何故ここに?」

「お前が起きてこないからだろ。夕飯すっぽかしやがって。まぁ、昨日は疲れてると思って放っておいたがな」

――ということは、十五時間以上寝ていたことになる。

「嘘っ……」

そう言えば、とナオはお腹に手を当て、グルルと鳴る腹の虫に気付く。

「どうやら状況が分かったようだな。なら、さっさと起きろ!」