「朝だ、ナオ! 起きろ」

シャーッとカーテンを開ける音がして、瞼越しに白い光が射す。

「うーん、卓兄……大好きだからあと五分」
「ああ、兄ちゃんも大好きだ。だが、遅刻してもいいのか?」

毎度変わらない、いつもの朝。

「早く来ないとお前の大好きな、チョコクロワッサン食べちゃうからな」

そう言い残すと、卓也はドアも閉めずに階段をきしませ一階に下りていった。

――本当、嫌んなるほどいつもと同じ朝。

ナオは重い瞼を上げ、真っ赤に充血しているであろう目を擦り、のろのろと起き上がると窓の外に目を向けた。

――雨でも降ってくれれば良かったのに……。

だが、思いも虚しく生憎の晴天だった。恨めしげに抜けるような青空を睨み付け、ナオは目を逸らす。その脳裏に昨夜の言葉が蘇る。

『ナオが高校を卒業したら結婚する!』

毎週楽しみにしていたTVドラマ。そのクライマックスと言える場面に、『付き合いで呑まされたぁ』と帰ってきた卓也が、ほろ酔い気分で何の脈絡も無しにそう宣言したのだ。

その相手が自分なら……とナオは思わずにいられないが、世の中はそんな甘いものではない、ということをナオは身を以て知っていた。



卓也とナオは義兄妹だ。二人がそういう間柄になったのは、ナオ(当時七歳)の母親と卓也(当時十七歳)の父親が再婚したからだ。

ナオと卓也の年齢差は十歳。だからなのか、妹ができた喜びからなのか、卓也はナオを実の妹のように溺愛した。それは友人たちに『シスコン』と言われるほどだった。

そして、ナオも――違う意味で卓也を慕った。

そのことにナオが気付いたのは小学三年生の時、卓也のデートシーンを偶然見かけた時だった。

ムカムカする怒りが“ジェラシー”だと分かったのはもう少し後のことだが、ナオが卓也を異性として『好きだ』と自覚したのはその時だった。

そんな大好きな義兄と一つ屋根の下に住めてナオは心から幸せだった。そして、この幸せは永遠に続くものだと思っていた。

だが、義兄妹となった五年後の秋、その幸せは脆くも崩れた。