林の中はまだ薄暗い。風もなく木立の枝葉はこそとも音を立てない。そこへ明け方の光が斜めに射して、葉陰にも黄金色の明かりを届ける。
 微かに、ぱりぱりと何かが裂けるような音がする。下草の細い幹のひとつに緑色のさなぎがあった。硬そうな殻を透かしてはねの模様がうっすら見える。頭部寄りの背中の部分がぱっくり開いている。
 隙間でもぞもぞ蠢きながら、くちゃくちゃな頭が出て来る。ぱりぱりぱりぱり音をさせて触角と足が出て来る。細い足がじたばたと細い茎にしがみつく。くちゃくちゃだった触角が伸びて小さな小さな黒曜石のような目が覗く。
 するりと腹部が出て足場を固定させると、しわしわのはねが伸び始める。黄金から白々と光度を増す陽射しを受けて、はねがどんどん伸びて行く。

(どこで生まれたの?)
 やわらかな風が吹き渡るあの草原で。
(どこから来たの?)
 大切なものを置いてきた。あの笑顔を守りたかったから。
(どこへ行くの?)
 もうどこにも行けない。

 黄色と黒の縞模様に、鮮やかな赤色と青色が差した美しいはねが広がる。朝日の中へと飛び立って行く。
 動けない屍《わたし》を残して――。