最後に残った生徒は、咲久良だった。
 白ワンピースは夜の暗さにも負けずに、明るい。

「私、わりと先生のおうちの近くなんですよ、自宅。もちろん、送ってくれますよね」
「ああ。当然だ。生徒の安全確保は教師の義務」

 嫌とは言えない。体験入部のお前がいなかったら、今日の仕事はもう終わっていたのになんて、とても言えない。
 俺は学校の駐車場にバスを戻すと、自分の車に乗り替えた。

 正直、運転はもう疲れた。早く眠りたいし、ハラも空いている。時計は午後九時を回っていた。

「もちろん行ってやる。道案内、できるか」
「ええ。ありがとうございます」

 俺は、脳内にある佐久良に関するデータを引っ張り出した。

 確かに、咲久良の家は俺のマンションと同じ方向。車ならば二十分ほどで着くだろうが、咲久良の自宅の詳細が分からない。

「おい、家に連絡しろ。遅くなったが、これから帰ると」
「ええ? 子どもみたいですね」
「いいから早く」
「はーい」

 ちょっと、ふくれて見せる。
 外見はオトナっぽく、きれい系でまとめていても、こういう幼いところは、年相応かそれ以下だ。

「迷惑じゃなかったら、メシをおごってやる。お前、あちこち寄って、帰るのが最後になったからな。送迎、特別に食事付き」
「それ、いいですね! その条件、了解しました」
「なら、親に許可を取れ」
「ぐぬぬ……鬼畜!」
「さっさとしろ。学校に、置いて行かれたいのか」

 そのひとことで、咲久良はバッグの中から携帯電話を取り出した。今どき女子高生、現金なものだ。

「……うん、そう。今、帰り。遅くなったから、先生が送ってくれているの。うん、だいじょうぶ」
「咲久良。電話、代われ。親御さんには俺から挨拶する」

 俺は携帯をなかば奪うようにして、咲久良の親と話をした。遅くなったことを早目にきっちり謝罪しておくことは、とても大切だ。

 幸い、咲久良の母親とおぼしき電話の相手は、了解してくれた。
 餌付けして満足させたら、さっさと送り届けよう。これ以上遅くなると、いくら担任と生徒の関係でも、言い訳できないあやしい時間帯になってしまう。


 咲久良の着ている、お嬢さま服には合わないなと思いつつも、俺は自分の家に近い、いつも通っている定食屋の、のれんをくぐった。