外から見ても実に壮観だったが、内側も豪華な家だ。玄関先ですら、人が住めそうに広い。
まるで、高級温泉旅館。
長い廊下は畳敷きで、壁には絵画や花が飾られている。和風だが、古びてはいない。大きなガラスが張られており、昼間はさぞかし明るいだろう。暗くて確認できないのが残念だ。
「まずは作戦会議をしましょう」
案内されたのは、咲久良の部屋だった。
いかにもお嬢さま風の、愛らしい部屋だ。白とピンクの色調でまとめられており、よく片づいている。うちに来たときの掃除も、丁寧で早かったことを思い出す。性格はアレだが、わりと家庭的なのかな……嫁さんに向いているのかも……おっと、そこまで!
「どうぞ、としくんも」
そう言いながら、咲久良はベッドの上に座った。だらしなく見えない、絶妙な角度で俺に向かってゆるーく膝を開き、ぴっちぴちでむっちむち(死語)の脚を強調している。
「男を部屋に入れておいて、ベッドに座るのはどうかと思う」
俺は正論を唱えた。
「相手が、としくんだからです。他の人にはこんなことしません。部屋にすら、入れません」
言うだけ無駄か。咲久良の白くてまぶしい太ももから目を逸らし、その場に鞄を床に置いて立ったまま、乱暴にネクタイを緩めた。
「ああ、その仕草いい。おとなっぽい! これからしますよって合図!」
「……ちっ。俺は、おもちゃか」
「いいなあ。私、ほんとうは男に生まれてきたかったんです。そうしたら、咲久良家の後継になれましたし、婚約強要なんてされなくて済みましたし」
「人の話を聞け」
咲久良が両脚を動かした。大きく開いたので、スカートの奥まで見えてしまった。白のレースだった。
「さ、作戦会議をしよう! じ、時間がもったいない、時間が」
「あー。としくん今、見ましたね。スカートの中!」
「お前が見せてきたんだろうが。不用意に動くな」
「嘘。覗き込みました。いいんですよ、としくんなら。動揺しちゃって、かーわいー」
「……原稿、一緒に探すんじゃなかったのか」
「どこにあるか分からない原稿を探すよりも、こっちのほうが確実ですよ。私に、としくんの赤ちゃんができちゃうの」
「バカ言うな。俺の社会的信用が失墜する」
「どこまでもお固いですね、もう。じゃあ、説明するから座ってください」
結局、俺は咲久良の隣に座らされた。
女の部屋に入ったのは久しぶりだ。当たり前だが、女の匂いがする。ぐいぐいと身体を密着させてくるし、俺の太ももに手を這わせてくる始末。
「咲久良、こういうのはよくない」
男慣れしているのか、調教されているのか。あの、坂崎の顔が、目の奥にちらついて頭から離れない。
俺は無言で咲久良の手を押し返した。
白くて、爪がきれいに整えられた理想的な手をしている。しかし、指先は少し冷たい。
「としくんが近くにいると、なんとなく触りたくなるんです。こうしているとね、すごく安心。ちょっとどきどきしますけど」
同じ気持ちだった。咲久良の手を押しのけたとき、いけないと思いつつ、ぬくもりが離れてゆくのは、同時に惜しいとも感じた。
いや、いけない。理性理性。
咳払いをして、感情の揺れをごまかす。
「で、原稿はどこだ」
「……母の、仕事部屋。たぶん」
まるで、高級温泉旅館。
長い廊下は畳敷きで、壁には絵画や花が飾られている。和風だが、古びてはいない。大きなガラスが張られており、昼間はさぞかし明るいだろう。暗くて確認できないのが残念だ。
「まずは作戦会議をしましょう」
案内されたのは、咲久良の部屋だった。
いかにもお嬢さま風の、愛らしい部屋だ。白とピンクの色調でまとめられており、よく片づいている。うちに来たときの掃除も、丁寧で早かったことを思い出す。性格はアレだが、わりと家庭的なのかな……嫁さんに向いているのかも……おっと、そこまで!
「どうぞ、としくんも」
そう言いながら、咲久良はベッドの上に座った。だらしなく見えない、絶妙な角度で俺に向かってゆるーく膝を開き、ぴっちぴちでむっちむち(死語)の脚を強調している。
「男を部屋に入れておいて、ベッドに座るのはどうかと思う」
俺は正論を唱えた。
「相手が、としくんだからです。他の人にはこんなことしません。部屋にすら、入れません」
言うだけ無駄か。咲久良の白くてまぶしい太ももから目を逸らし、その場に鞄を床に置いて立ったまま、乱暴にネクタイを緩めた。
「ああ、その仕草いい。おとなっぽい! これからしますよって合図!」
「……ちっ。俺は、おもちゃか」
「いいなあ。私、ほんとうは男に生まれてきたかったんです。そうしたら、咲久良家の後継になれましたし、婚約強要なんてされなくて済みましたし」
「人の話を聞け」
咲久良が両脚を動かした。大きく開いたので、スカートの奥まで見えてしまった。白のレースだった。
「さ、作戦会議をしよう! じ、時間がもったいない、時間が」
「あー。としくん今、見ましたね。スカートの中!」
「お前が見せてきたんだろうが。不用意に動くな」
「嘘。覗き込みました。いいんですよ、としくんなら。動揺しちゃって、かーわいー」
「……原稿、一緒に探すんじゃなかったのか」
「どこにあるか分からない原稿を探すよりも、こっちのほうが確実ですよ。私に、としくんの赤ちゃんができちゃうの」
「バカ言うな。俺の社会的信用が失墜する」
「どこまでもお固いですね、もう。じゃあ、説明するから座ってください」
結局、俺は咲久良の隣に座らされた。
女の部屋に入ったのは久しぶりだ。当たり前だが、女の匂いがする。ぐいぐいと身体を密着させてくるし、俺の太ももに手を這わせてくる始末。
「咲久良、こういうのはよくない」
男慣れしているのか、調教されているのか。あの、坂崎の顔が、目の奥にちらついて頭から離れない。
俺は無言で咲久良の手を押し返した。
白くて、爪がきれいに整えられた理想的な手をしている。しかし、指先は少し冷たい。
「としくんが近くにいると、なんとなく触りたくなるんです。こうしているとね、すごく安心。ちょっとどきどきしますけど」
同じ気持ちだった。咲久良の手を押しのけたとき、いけないと思いつつ、ぬくもりが離れてゆくのは、同時に惜しいとも感じた。
いや、いけない。理性理性。
咳払いをして、感情の揺れをごまかす。
「で、原稿はどこだ」
「……母の、仕事部屋。たぶん」