さっそく、坂崎が手を回したのだろうか。

 あいつなら、俺を脅すだけでなく、遠慮なくデート写真を親や学校へ送りつけるだろう。
 教師と女子生徒のスキャンダルに進展すれば、俺なんて若手の教師はあっという間に吹き飛んで人生終了だ。

 俺は時間をかけてじっくりとコーヒーを飲み終え、外に出ると咲久良に電話をかけた。

『おそーい! としくん、遅い。返事、遅いです!』

 当然、待ちくたびれていた咲久良は怒っていた。

「悪いが、土方先生はヒマじゃないんだ、放課後も多くの残務が山積している」

『で、来てくれますよね、ねねね? 友だちが来るからって言って、住込みのお手伝いさんはご実家に帰しちゃったんです』

「俺は、友だちか」

『まあ、そんなものですよね。今から、車ですぐに来てください』

 まったく……簡単便利な男として、いいように使われている。友だち? 恋人じゃなかったのか?

「あー。それが。今、新宿にいるんだ。どんなに急いでも、あと三十分、いや一時間はかかるな」
        
『新宿? としくん、大変なお仕事が終わった後に、わざわざ新宿へ? もしかして、顔に似合わず合コンとかですか。ひどい、信じられません!』

「バカか。俺がそんな会に参加すると、一ミリでも本気で思ってんのか」

『あはは。思っていません。だってとしくん、顔はいいのに、性格は極悪ですし。オトナの女性と、まともにお付き合いしたことは、ほとんどないんですよね。あーあ、だいじょうぶかな、私の将来』

 なんなんだ、極悪って。

「……今から行く。待っていろ」

『分かりましたって。でも、原稿が見つかったら、ご褒美くださいよ』

「褒美、だと?」

『こんないい情報、教えたんです。見返り期待、大いに期待、超期待!』

 声が弾んでいる。この緊急非常時にあほか。

「とにかく、行くから。なるべく早く」

 咲久良はまだ、なにかを続けて喋っていたが、俺は一方的に、電話を切った。ぶちっと。


 今夜はまだ、終われないらしい。