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「そろそろ家庭を、と思いましてね」
 柏木さんは40を過ぎて再び婚活を始めた。合コンに懲りていた柏木さんはお見合いという方法で相手を探した。条件のいい柏木さんに話はすぐに舞い込む。既に数人と見合いをしていたけどピンと来る女性は現れなった。そんな折、父の知人から私をと紹介される。たまたま私の家族との写真を持っていた父の知人はそれを柏木さんに見せた。料理が得意でスキーの上手い娘だ、と。その写真で私は父と腕を組んでいた。きっとこの娘さんなら暖かい家庭を築ける、そう直感した。
「姉が高校生の頃、パパ臭い!、パパの洗濯物と一緒に洗濯しないでー!、って毛嫌いしてましたから。あの写真は衝撃的でした」
 そしてあの見合い写真は私の元にやって来た。でも八木田橋という婚約者がいた私はしばらくの間、放置していた。
「すぐに見合いの席がセッティングされると思っていたのに肩透かしを食らった気分でね」
 今まですぐに釣れた魚が全く釣れない。日に日に私への思いは高まるばかりだった。柏木さんは父の知人に尋ねた。そして私に恋人がいることを知った。
「どうしても会いたくてご自宅に電話して。お母さんにピシャリと断られましたが諦めきれなくて」
 で、ストーカーのように薬局に押しかけた。駄目で元々、でも私は快く食事をした。初めて会うのに年収を聞かなかったのも好印象だった
「あのときは柏木さんがアイドルの話を」
「でも楽しそうに聞いてくれた」
 ますます柏木さんは私を気に入った。そして2度目の食事のとき、私は結婚の条件を挙げた。あれ程嫌がっていた条件、なのにそれを尋ねられて嬉しく感じた。
「僕との結婚を考えてくれてるんだなと思ってね」
 私は自分を最低だと思った。年収こそ気にしなかったけど、婿入りや仕事を続けたいと結婚の条件を上げた。条件だけで柏木さんと結婚しようとした。
「ごめんなさい」
「ううん、謝らないで。僕も反省した。合コンで知り合った女性の中にも僕との結婚を真剣に考えてくれた人もいたんじゃないかと思う。それを頭ごなしに僕の収入が目的だなんてね。だから今までうまくいかなかったって気付いたよ……イスタン」
 最後に付け足すように柏木さんは呟いた。
「また、僕のイスタンを探さなきゃ」
 “イスタン”、その民族が住むべき場所。僕は稔だからミノリスタンかな、と笑う。
「青山さんはユキだからユキスタンだね」
「はい」
「電話の彼? あの喧嘩みたいな会話、青山さん生き生きしてた」
 だから彼がユキスタンだよ、早く仲直りしてね、と柏木さんは言った。