中間考査の結果も、渡辺麻里が颯爽と一位を獲得したことは彼女の表情を見ていれば分かることだった
 茶髪のロングヘアは恐らく地毛で染めているものではなさそうだったし、あまりにも白い肌はファンデーションを塗っているようにも見えたが、そのきめ細かい毛穴は化粧をして出来上がるものではないと佐野遥は知っていた。アイラインがしっかりしているように見えるのは、長くくるんと上がった睫毛が瞼に影を落とすからだった。
 そんな風にまじまじと麻里を見つめたのは今回が初めてだった。
「で、どうなわけ?」
 苛立ちが目に見えるように、殺気立った麻里は佐野遥を問い詰めていた。
 世間知らずというよりは人の色恋沙汰など興味がないだけで、自分にそれが不幸の種として降りかかってくることも想定外だった。
「なんとか言えよ。」
 麻里の口調が強くなる。
「どうって言われても私は清水のことなんとも思ってないし。」
 言い返す言葉が震えないようにスカートをぎゅっと握った。
「あたしは智巳と付き合ってんの。人の彼氏誑かすようなことしてんじゃねーよ。」
 佐野遥の言い分など聞こえていないような返答だった。麻里はふんっと声を上げながら踵を返して去っていった。
 思い当たる節はなかった。確かに業間になると神谷と清水と3人で勉強をしていることはあったが、それ以上でもそれ以下でもなく、彼らに佐野遥が特別な感情を抱くような出来事は何もなかったし、その逆が起こるとも思えなかった。
 いつものように図書館で机に向かっていたはずの佐野遥の所に、ずかずかと歩いてきて大きな声で渡辺麻里が呼びつけたのがたった5分程前。たった5分の間に麻里は佐野遥の清水に対する色目について忠告し、こちらの言い分など全く聞き入れずに去っていったのだ。
 佐野遥は小首を傾げて席に戻った。麻里が大きな声で捲し立てて言ったので、他の生徒の視線が痛かったが気にしないことにした。
 意味が分からない、というのが正直な感想だったし、正直どうでもよかった。渡辺麻里と仲良くしたいという気持ちは元々なかったが、それにさらに拍車がかかっただけだ。誤解されるくらいならもう清水と話すのをやめれば良いのだろうし、清水とセットのように動く神谷も同様であろう。
 佐野遥は彼らを遠ざけることにした。
 清水智巳は何も知らないようだった。清水と神谷は相変わらず話しかけて来ようとしていたが、佐野遥は逃げるように二人を避けた。
 その頃からだった。クラスの女子は以前にも増してよそよそしくなったし、佐野遥が教室に入るとシンと分かりやすく静まり返ることもあった。