「芽衣(めい)はどう思う?」

結菜(ゆいな)がそう尋ねてくるときは、たいてい答えるべき言葉が決まっている。
解いていた数学の問題から視線をあげ、前の席で体ごとこっちを向いている結菜を見た。

「気のせいだと思うよ」


心配性の結菜はよく私に質問をしてくる。
それに対しての正しい対応は、心配の芽を摘むような答えがベストだと一年半の関係で学習している。

放課後の教室には私たち以外誰もいなくて、窓からの夕陽で室内がオレンジ色に染まっている。

「そっか……。じゃあ私、嫌われているわけじゃないんだよね?」

ひとつに結った髪を指でとかしながら結菜はホッと息をついた。
不安なときに髪を触るのは彼女の癖だ。

「どうして嫌われていると思うの?」

「だって……今朝『おはよう』って言ったときにそっけなかったから」

うつむく結菜はクラスメイトのひとりに入学以来ずっと恋をしている。
それはあまりにもひたむきで、見ているこちらが痛くなるほどの片想い。
一年半も想い続けていることになる。