しばし、沈黙が続いた。

――そして、私はその後の記憶がない。

初老の刑事のセリフを聞いたとたん、スッと目の前が暗くなったのは覚えている。
机に手を置いたのだろう、置かれていた湯呑が音を立ててはじけ飛んだ。

和宏が怒声をあげて部屋に駆けこんでくるのがぼやけて見えた。
体を支えてくれる和宏にすがりつくのが精一杯。

どんどん遠くなる意識のなか、最後に刑事が言った言葉だけが耳に残っている。

その言葉は、

「今朝早く、稲垣沙希さんが他殺死体で発見されました」

だった。


そこから先は、闇――。