「私は、捕まるような悪いことはしてません。ということは、私の身近な人になにか起きたと考えるのは普通じゃないですか? 母や兄の身になにかあったなら着信があるはず。でも、それもありません」

一気に言ってから、ようやく私は息をつけた。走ったあとみたいに息が切れていた。

初老の男性は、「なるほど」と、うなずいたのち、

「確かに敬語も使わずに失礼したね」

と、素直に頭を下げてくる。
隣の男性も促され、しぶしぶ軽く会釈のように頭を前後させた。

「刑事さん……なんですね?」

「ああそうだよ。いえ……そうです」

ふてくされた顔をしてつぶやく若い刑事が警察手帳をチラッと見せた。
自分で言っておきながらショックが体を襲う。

「いったい……沙希になにがあったんですか?」

声がかすれているのがわかる。

「落ち着いて聞いてください」

姿勢を正した初老の刑事が表情を引き締めてから、ひとつ息を吐いた。
私も、立ったまま唾を呑む。