「なにがあったんですか? 沙希は今、どこにいるんですか?」

「君、質問に答えなさい」

向かい側に座る若い男性は、ボサボサの髪で私に言ってくる。筋肉質な体と鋭い目つきが、まるで私を責めているように感じた。

言葉を発しようとしても、まだ続くめまいに私は首を振ることしかできない。
沙希にいったいなにが……。
乾いた唇を噛みしめてうつむく。

「おい、さっさと答えなさい」

男性が私をのぞきこんで言った。

「どうして稲垣沙希になにかあったと思ったんだ?」

「それは……」

「早く答えろ」

命令口調でせかしてくる男性に目を合わせると、怒った顔で私をにらんでいる。
目の前に置かれたお茶をガブッと飲み干してから立ちあがった。

細かく震えている自分の体と心を戒め、言葉にしようと口を開く。

「彼女は数日前から無断で学校を休んでいます。これまでも休みがちでしたが、何度かけても電話にも出てくれません。こんなことはこれまで一度もありませんでした」

言葉を宙に放っても、息苦しさは増えていくよう。
柊先生が私を心配そうな目で見ている。

「そんなときに、突然の臨時休校。沙希と一番仲が良かった私の呼び出し。そしてここには目つきの悪く、敬語も使えないような男性が二名」

若い男性のほうがあからさまにムッとした顔をしたけれど見ないフリをした。

「あなたたちはどうみても警察官……いえ、制服を着てないから刑事ですよね」

「ふむ」

身を乗り出していた初老の男性の表情が少しだけ柔らかくなった気がした。