「有川、校長室まで来てくれ」

私にだけ聞こえる小さな声で柊先生は言った。

「え?」

「なにも聞くな。とにかく一緒に来てほしい。緊急の用事なんだ」

柊先生の声は震えているように感じた。
返事をしなくちゃいけない。せめてうなずくだけでもしないと、そう思っても硬直したように体が動いてくれなかった。
ふいに肩に置かれた手にハッと顔をあげると、隣に和宏が立っていた。

「先生、俺もついて行く」

「いや、それは……」

「ついて行く」

周りには聞こえないように声のトーンを落とした和宏はまっすぐに柊先生を見ていた。まるでにらんでいるような横顔に、ようやく呼吸ができた気がした。
柊先生は迷ったそぶりを見せたあと、

「……わかった」

そう言い教室から出て行った。