先生が教壇からおりたのを合図に、椅子を引く音が響いた。次々にみんなが帰りはじめるなか、私はまだ茫然としていた。
ふわりと頭をかすめるのは沙希のこと。

『ちゃんと学校に行くから』と約束したはずなのに、どうして来ないの? どうしてアプリの会員登録が消えているの?
そんなはずはない、ただの偶然だと何度も悪い考えを追い払う。けれど……お腹にある不安は風船をふくらますようにどんどん大きくなっていく。
『あたし、いつ死んでもいいし』とすねた顔が脳裏に浮かぶ。

教科書をカバンにしまい立ちあがると、同じように立った和宏が顔を近づけ、

「大丈夫か?」

と尋ねてきた。

「ん」

なぜか声をひそめてうなずく私。結菜の支度が終わるのを待って歩き出そうとすると、柊先生が手招きしていることに気づいた。
疑問を覚えながらも近づいて行く私を、和宏と結菜、そして久保田が眉をひそめて見ている。