「あのさ――」

言いかけたとき、教室の扉が勢いよく開く音が聞こえ言葉を区切った。柊先生が文字通り教室に飛びこんできたのだ。騒がしい音が一瞬で消え、みんなの視線が柊先生に集まる。

「みんな……着席するように」

息を切らせながら柊先生は教壇に向かう。まだ始業前というのにどうしたのだろう。クラスメイトもいつもと違う柊先生の様子に、文句を言うこともなく席に着く。
教壇にもたれるように両手を置いた柊先生はなぜか私を見ていた。
普段なら見つめられてうれしいはずなのに、恐怖に似た感情がムクムクと沸きあがっていく。なにかが起きたんだ……。
目線を外せずにいる私からようやく視線を外した柊先生が息を吸う音が届いた。

「突然ですが、この時間より休校とすることになった」

ザワッとした声の波が鋭く一気に広がる。
隣の席の和宏と一瞬目を合わせてから、私は意識を前方に戻す。

「みなさんはすぐに下校しなさい。今日は部活動も禁止。帰りはどこへも寄らずにまっすぐ帰ること。いいな、まっすぐに帰るんだ」

「先生」

和宏が椅子を引いて立ちあがるが、それを柊先生は右手で制した。

「質問は受けつけられない。詳しくはまた話をするから、とにかく今すぐに帰りなさい」

誰もが、ただごとではないと確信していた。