「でもさ……。本当に好きかどうかって、どうやったらわかるの?」

カチャリとお皿を重ねる音がさみしく聞こえた。

「好きな人が現れたらちゃんと心が教えてくれるさ。まあ、俺はそういうの忘れちゃったけどな」

「ね……お兄ちゃんも前は彼女いたりしたの?」

そういう話はこれまで聞いたことがなかったから少し緊張した。

「もうずいぶん前の話だよ。まあつき合った期間は少なかったけれど、俺にとっては本気で好きな相手だったよ」

宙を見てなつかしむ顔をする直樹。こんな表情、見たことがなかった。

「どれくらい前の話?」

「終わったのが三年くらい前かな。ほら、あのころってさ……俺も会社を辞めた時期だっただろ?」

ブラック企業からなんとか逃げ切ったころだ。
勤めていたころはピリピリしていた直樹から憑き物が落ちたように見えたことを覚えている。

「まさか……フラれちゃったの?」

「いや、死んだ」

「えっ」

思わずお皿を落としそうになる。
驚く私に、お兄ちゃんは柔らかく笑みを浮かべた。

「病気でなぁ。どうしようもなかったんだ」

「へぇ……」

あいまいにうなずいたあと、もういくら探しても言葉は出てこなかった。
家族でも知らないことってあるんだな……。

「なんか、変なこと聞いてごめん」

なんだか悪いことを聞いた気がして、シュンとしてしまう。

「いいさ。もう終わったことだし。芽衣もがんばれよ」

「……うん」

それから私たちはテレビの話などをしてそれぞれの部屋に戻った。