着替えて下におりてくるころには、夕食がはじまる。
三人で食卓を囲めるのは週に何度かしかない。
母の夜勤だけじゃなく、直樹も出張が多い仕事なので、ひとりで食べることも多いからだ。

それでもさみしい感覚はあまりない。
離れていても、私たち家族はいつもお互いを心配していたし、それが伝わっていたから不安はなかった。

夕食を終えると、母はたいていソファで横になりテレビをみながら寝てしまう。
不規則な時間の仕事なので、体のリズムも不規則になりがちなのだろう。

夕食後は直樹が洗い物をし、食器を拭いて棚にしまうのが私の役目。

「ね、お兄ちゃんさ、ほんとに彼女いないの?」

大きなお皿をしまいながら何気なく尋ねると、

「んー、今はいない」

手際よく皿をゆすぎながら答える直樹。

「私もいないんだよねー。狙ってる人はいるんだけどな」

手を止めたお兄ちゃんが、「えっ」と私を見た。

「おいおい、前に話してた先生のことか? まさかまだ追いかけてるのか?」

あきれた口調で言ってくるから下唇を尖らせた私。

「ダメなの?」

「ダメとは言ってないが、新任の先生なんだろ? あんまり迷惑かけちるのはお勧めしない」

ため息をついてお兄ちゃんは再び皿を洗い出す。

「やっぱり先生と生徒って難しいのかな? はじめから相手にされていない気もするんだよね」

「かなわない恋なんてないと俺は思うよ。想い続けていればチャンスだってある。それが本気の恋ならな」

「本気……」

そう言われるとさっきの『恋に恋をしている論』が再び顔を出す。